No.06-28:庭先

メインイメージ
date
2006.09.18
tool
Photoshop,Illustrator,Painter
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レオナとロイド。ザ・バトル。

 数ヶ月に一度、Ravenはフィエロンに立ち寄る。その際、レンは師であるロイドの家に顔を出す。
「レン、今日はちょっと食料切らしちまってんだ。ちょっと行って買ってきてくんねえ?」
  ロイドが、ミカンの皮をむきながら何気なく言う。ロイドの向かい側でソファにかけて本を読んでいたレンは、分かりましたとだけ言って、本を置いて立ち上がった。
「金は後で払うからさ」
  ミカンの一粒を口に入れるロイド。
「いえ、結構です。俺の金で払います」
「そう? じゃ、折角だから買いだめしてきてくれや。……ああそうだ、ついでだから久々にお前が何か作れよ」
「いいんですか」
「別にお前、料理下手じゃないだろ。あの黄色に任せるよりはマシだと思うがなあ」
  ロイドがちらりと外を見やる。視線の先にでは、レオナが素振りをしている。角材で。庭のどこかにあったものだろう。
  新聞を読みながらミカンを食べるロイドにさんざん言葉の暴力を受け、「もういいよッ!」と言って一人庭に出ていったのだった。
  レンも同じように外を見遣って、溜め息をついた。
「レオナに任せると、材料を全部使いきりますから」
  味の方はともかく、と付け足す。
「うわっ黄色サイテー。どういう育ち方してきやがったんだ」
「さあ、俺は知りません。それじゃ行ってきます」
「おう、気をつけてな。知らないおじさんに声かけられてもついていくなよ。いいマダムがいたら知らせろよ」
  レンは返事をせずにドアを閉めた。

  ロイドは一粒、二粒、と口にミカンを放り込んでいく。最後の一粒をもきゅもきゅと噛み、飲み込む。新聞をたたみながらあくびをして、立ち上がる。傍らに置いてあった本を抱え、のろのろと外に出た。

「あれ、先生どうしたの」
  呼吸の一つも乱していないレオナ。素振りを始めたばかりなのか、それとも最初から加減していたのか。角材を振り回していた手を止めた。
「久々に手合わせしねえ?」
「お、いいね。レンも出かけたみたいだしね」
  レオナとロイドは、レンの見ている前では決して手合わせしない。ロイド側の理由としては「下手したら俺が死ぬから」で、レオナ側の理由が「レンの機嫌が悪くなるから」だったりする。
  ロイド対レンの場合、ムキになったレンが派手な魔術を使いかねない、というか過去に行使したので、ロイドが頭を下げて「カンベンしてくれ」と言ったのだ。下手に断ると落ち込みかねないレンをロイドなりに気遣ったのだが、しばらくレンのオーラがどんよりしていたという。
  そこでロイドとレオナがたまに手合わせしていたのだが、レンとしてはそれが不満なようで、明らかに不機嫌そうな顔をして、家の中で晩御飯を調理していることが多かった。艇に戻ってからのレンは機嫌が悪く、乗組員たちも居心地が悪そうにしているので、レオナがやたらと気を遣うハメになり、疲労困憊、というわけだ。
  そういうわけで「レンがいる時は手合わせしない」という暗黙の了解がロイドとレオナの間で存在しているのだった。

「折角だから、こっち使ってもいい?」
  レオナがにこやかに指したのは、塀に立てかけてある、刃渡り1mほどのバスタード・ソード。
「好きにしろよ。お前がそれ使うってんなら、こっちも手加減しねえけどな」
「ちょっとくらい本気出さないと面白くないじゃん? 最近、ヌルい仕事ばっかで身体なまりそうだったんだ」
「は、嬉しそうに。マジで手加減しねえぞ」

  レオナが両手で持った剣を振り下ろす。ロイドは魔術を行使せずに、ひらりとかわす。その間、短い成句を呟く。
「灰色の命ずる、黒の8番」
  レオナの頭上から、黒い矢の形をしたものが降り注ぐ。気配で察知して、間一髪で前方に避ける。そのまま詠唱の後の隙を狙うように、ロイドの足元を剣で払う。ロイドはそれを跳んでかわし、踵落としを決めようとする。レオナは前方に転がり、避ける。
「そう簡単にはいかねーか」
「俺をナメてんの黄色?」
「まっさか。フィエロン魔術学院の元非常勤講師にして、魔術大会で幾度となくセコい手で優勝してるロイド=ファウラー先生を侮辱してるわけないでしょーが」
「よし黄色、死ね」
「冗談、それはこっちの台詞」
  レオナは助走をつけて跳び上がり、ロイドに斬りかかる。
「おい黄色、お前瞳孔開いてんぞ。キモーい。……灰色の命ずる、青7番周囲赤2番混成、固定」
  ロイドの後方に青い光の弾ができる。圧縮したエレメントの塊だ。
「開放」
  光弾が一斉にレオナに向かった。レオナはそれらを全て剣で弾いた。本来、魔術は何の効果も与えられていない剣で防げるものではない。
「おうおう、属性付与なんてやってくれちゃって。レンに見られたら問い詰められるぞレオナー」
  笑みを浮かべたまま、突進してくるレオナ。斬り上げて突いてと、攻撃を繰り返す。ロイドはそれらを全て、ひょいひょいとかわす。
「黄色ー、そろそろ終わらせないとレンが帰ってくるんじゃねえのー」
「その前にオレが勝つよッ!」



「何をしてるんですかッ!」
  ものすごい剣幕で、二人を怒鳴りつける声。紛れもなく、レンだ。
「おう、おかえりー……っておいおい、食材落とすなよ。いつからそんな子になったんだお前は」
「すみません、取り乱して落としました。それで、何をしていたんですか」
「何って、てあわ……」
「ミカンの仇ー!」
「っと、危ねえな黄色。ミカンくらいでそうカッカするなよ。大体お前は既に黄色なんだから、これ以上ミカンなんて食ったら更に他の部分も黄色になるぞ」
「ええい知ったことかー! オレだってミカン食べたかったのに勝手に全部食べてー!」
「あれは俺の家のモンだぞ? 勝手に食べて何が悪いよ」
「客人に残しておくという配慮はないのかー!」

  ミカンを先生に食べられたくらいで、レオナは先生に喧嘩を?
  その程度で――――――バスタード・ソードを振るってまで、先生も先生で、魔術を行使してまで応戦して―――。

  ぽかんとするレンを放置して、ロイドとレオナは戦闘を続けている。レンは仕方なくそこいらに散らばる食材を拾い上げ、家に入った。苛立ちながら調理を済ませ、二人の戦闘が終わるのを待っていた。







  それからしばらく、レンの機嫌が悪かったのは言うまでもない。